「せんたの記憶の部屋」

健康記録とエッセイ

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老嬢テリアの終わらないクレームと、雨の日の憂鬱

 

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近頃は雨のせいで空の機嫌がすこぶる悪い。その影響で、我が家の「ばあさん」が食料品の買い出しに出かける曜日がすっかり狂ってしまった。そして買い出しの日に私へ課せられるのは、高齢のレークランドテリアとのお留守番という、どうにも手持ち無沙汰な依頼である。普段なら部屋の隅で古びたモップのように丸まって眠りこけている彼女だが、ばあさんが買い物袋を下げてドアを出た途端、なぜか俄然スイッチが入ってしまうのだ。

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トテトテと鈍い足音を立てて玄関へ向かったかと思えば、すぐにUターンして私の元へ戻ってくる。そして私を見上げては「フンッ」だの「ウゥ……」だの、意味不明の言葉で熱心にまくしたて始めた。 「どうした。私が留守番相手では不満だとでも言いたいのか?」 言葉の通じない異業種とのコミュニケーションに頭を抱え、ならば添い寝でもしてやれば落ち着くかと思い、彼女の横に寝転がったのが運の尽きだった。彼女は私の顔を見るなり、今度は「ウ~~~ッ!」と地鳴りのような大声で猛抗議を繰り出したのだ。 空耳だろうが誰かがぽつりと言ったように聞こえた。 「お前の顔が近くて鬱陶しいって言ってんだよ。それか、しけったドッグフードの味について文句言ってんじゃないの」 「犬は味覚のクレームなんか入れない。それに私はただ親愛の情を示しただけだ」

冷静に空耳ににツッコミを入れつつ、私はテリアの顔周りを撫でようと手を伸ばした。途端に彼女は露骨に嫌な顔をして顔を背ける。どうやら最近、鼻の周りが過敏になっているらしい。怪我でもでき物でもない。ただ、歳を取って、自分の聖域に触れられるのがたまらなく煩わしいのだろう。「触るな、素人が」という、熟練の老嬢ならではの気難しさとプライドの表れだ。いや待てよ、私はただ優しく接しようとしているだけなのに、なぜ理不尽な文句を言われ続けなければならないのだ。 そうこうして頭を抱えているうちに、玄関のドアがガチャリと開いた。ばあさんの帰還である。その瞬間、テリアは「ウゥ」という唸り声をピタリと止め、何事もなかったかのように自分のベッドへ戻り、ふたたび静かなモップと同化した。

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私のあの終わらないクレーム対応時間は一体何だったのか。空耳男は「あっけない幕切れだな」と欠伸をしている。 動きはすっかり遅くなり、鼻先を触られることをひどく嫌う気難し屋のテリア。それでも、彼女のその不器用な自己主張は、衰えゆく体で懸命に「今」を生き、ばあさんの不在に対する不安を彼女なりにやり過ごすための手段だったのだろう。 「まあ、仕方がないか」 私はため息をつきつつ、買い出し袋からネギを取り出すばあさんを手伝うために立ち上がった。この理不尽な時間も、この古びた街の片隅で彼らと暮らすための必要経費なのだから。明日もまた、平和な唸り声が聞ければそれでいい。