
土曜の朝、バスを乗り継ぎ、青梅線から立川駅を経由して南武線へと乗り換える。
普段なら車で出かけるところだが、歯の痛みと鎮痛剤のせいか、
今日は電車に揺られる気分だった。
久々の南武線、武蔵溝ノ口駅で降りる際、
エスカレーターの位置を狙って乗車したつもりが、
見事に外れた。「昔はもっと勘が冴えていたんだがな」
と、仕事をしていた頃の自分
田園都市線と大井町線を乗り継ぎ、ようやく辿り着いた歯科医院。
受付の若い女性の冷たい眼差しと「予約なしですか」という咎めるような口調に、
内心ムッとした。「これも老いぼれへの塩対応か、殿様商売め」
と喉元まで出かかった文句を、グッと飲み込む。ここで声を荒らげては、
ただの厄介な老人だ。大人の対応、
と自分に言い聞かせて待合室の椅子に深く腰掛けた。
30分後、ようやく呼ばれて治療を受け、嘘のように痛みが引いた。
帰り際、診察室の奥から
「お母さんゴメンナサイ、お父さんゴメンナサイ、もういいよ、帰りたい……」
と、必死に懇願する子供の泣き声が聞こえてきた。
痛いのは大人も子供も同じだ。その切実で可愛らしい命乞いに、
思わずフッと頬が緩んでしまった。
帰路は南武線の遅延に始まり、青梅線の乗り場変更に気づかず、
うっかり中央線に乗り込んでしまうという大失態。
日野駅へ向かう車内のアナウンスを聞いて頭を抱えた。
まったく、世話のない一日だ。
回り道もまた、人生のスパイスだ。そう思えば、
少しばかり足取りも軽くなった。