時計の針が10時20分を這うように過ぎた頃、
私のいわゆる「朝の作戦」がようやく開始された。
この遅延は当然ながら、愛すべき老婆の買い出し遠征によるものだ。
「まあ、軍隊みたいな大げさな言葉遣いはおやめなさいな。
ただの食料品店への買い物ですよ」 と、
彼女は穏やかな微笑みで私の仰々しさを中和しながら、優しくたしなめた。
ハナビシソウ
「それに外は気をつけてね。今日は空気が重たくて、溺れてしまいそうだから」
私は彼女の人の良いお節介に対し、
架空の中折れ帽に手を当ててみせた。
「ご案じなさるな、マダム。私はただ愛機を首から下げて、
久しく足を踏み入れていなかった基地方面への偵察任務に赴くだけですから。
あそこで丸くなっているレークランドテリアの警護は頼みますよ」
ハコネウツギ
しかし、街を熱く湿った死装束のように包み込む
、息の詰まるような容赦ない湿気の中へ一歩踏み出した瞬間、
彼女の警告が決して誇張ではないことを悟った。
空気は太陽の重苦しい共犯者となり、通りを湯気の立つ煉獄へと変えていたのだ。
もし私が熱帯のシダ植物であったなら、
さぞかし絶好の散歩日和だったことだろう。
茹だるような暑さの中、
霞むファインダー越しに名もなき路地を切り取りながら歩を進める。
本日の朝活偵察任務、踏破距離は4.5km。
やれやれ、この過酷な環境下での老体の稼働としては、
まずまずの戦果と言えるだろう。
これで今日の朝活カメラマン終了となった。



