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小説「となりのひと」series1 一章 バス停にて

前節を先にお読みください。

nokonoko365.hatenablog.jp

一章 バス停にて
 のどかな郊外の街から、大都会・東京へ。少し長距離の旅になるが、急ぐ旅路ではない。バスならば時間はかかれど、乗り換えのたびに階段を上り下りする必要もない。若い頃のように強靭ではない今の足腰には、タラップを数段上がるだけで済むバスの優しさが身に沁みる。  それに、東京都内区間に入れば、財布から小銭を探す手間もいらない。電車ほど本数はなくとも、私にとってはこれ以上ない便利な相棒だ。

 バスを待つ時間も、また一興である。  乗り継ぎの旅では、様々な人が隣に着座する。平日の昼間ともなれば、若い子と隣り合わせることは少なく、もっぱら同世代や年配の方々が旅の道連れとなる。会話が生まれることは稀で、ただ互いにバスの振動に身を任せる沈黙の時間。  そこで、私の悪い癖が出る。退屈しのぎの心の中で、「お隣さん観察」が始まってしまうのだ。他意はない。単なる老人の興味と、尽きせぬ好奇心からである。

 私は旅が好きだ。それも、お金のかからない小さな旅、「シルバーパスの旅」が。  東京都では、七十の坂を越えると、この魔法のパスが僅かな負担で手に入る。都内を走る民営バス、都営バス、都営地下鉄、そして都電荒川線。一部の例外を除き、都内の毛細血管のように張り巡らされた公共交通を、縦横無尽に行き交うことができる通行手形だ。

 これに乗って当てもなく旅をするのが、何よりも好きだ。尽きない好奇心を満たす、まだ見ぬ景色。初めて降り立つ街の彩り、匂い。そして、隣り合わせた人との、言葉を交わさぬ一期一会。そんなささやかな可能性を秘めた旅が、たまらなく好きなのだ。

 さて、定刻だ。遠くからエンジンの音が近づいてくる。バスに乗り込むとしよう。 

となりのひと

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